瀬尾まいこさんの『ありか』は、特別な事件が起きる物語ではありません。
描かれているのは、どこにでもありそうな日常。
だからこそ、登場人物の言葉が、ものすごく身近に感じられました。
物語に触れながら私は、「親」という立場から、そして「娘」という立場から、何度も自分を見つめ直すことになりました。
この作品には、多くの親にとって救いとなる言葉が、散りばめられていると感じます。
どんなに親に恵まれて育ったとしても、完璧な親子関係など存在しない。
その当たり前で、けれど目を逸らしがちな事実を、改めて思い知らされた一冊でした。
親子関係の、逃れようのない厳しさ
主人公の美空は、決して恵まれた環境で育ったとは言えません。
いわゆる“毒親”と呼ばれても不思議ではない母親は、美空が大人になってからもお金の無心に現れます。
それでも美空は、どこかで母親を拒みきれない。
その姿に触れたとき、今この瞬間にも、美空のような人生を生きている子どもがいるのだという現実が、私の脳裏に浮かびました。
子どもは、無条件で親を愛してしまう存在なのかもしれません。
いくつになっても、心のどこかで親からの愛を求めてしまう。
だからこそ、一度刻まれた“親の呪縛”から、ひとりで解き放たれるのは難しい。
この物語からは、そんな親子関係の逃れようのない厳しさを感じました。
親子関係以外の、血縁を越えたやさしい絆
親子関係以外の、やさしい人間関係も丁寧に描かれているところにあります。
- 血のつながりのない“弟”との関係。
- 保育園で出会ったママ友。
- 同じ職場で働く同僚。
美空を取り巻く人たちが、それぞれの立場から彼女たち親子を支える姿に、私は何度も心を温められました。
そして私はこのようなことを再確認しました。
- 大人になってから出会う人との関係が、人を救うこともある。
- 助け合える関係に、血のつながりは関係ない。
- お互いに歩み寄り、関係を育てていくことは、他人同士でもできる。
そして③については、親子でも同じことが言えると思いました。
親子だからといって、放っておいても関係が築けるわけではない。
大切にしなければ関係性は揺らぎ、努力を怠れば少しずつすれ違っていく。
この物語は、そんな当たり前でいて難しいことを、教えてくれているように感じました。
子育てとは、結果を支配できないもの
親になると、「私の育て方が悪かったのかな」と落ち込むことは、きっと誰にでもあると思います。
けれどあるとき、私はふと、こんな疑問を抱きました。
なぜなら、もし子どもが“大人にとって都合のいい子”に育ったとしたら、今度は「自分の育て方がよかったからだ」と思ってしまいかねないからです。
そんな私が思わず深く共感してしまった言葉があります。
子どもなんて、どうなるかわからない未来そのものじゃん。そこに手を触れられるってすごいことでもあるし、同時に怖いことでもあるからさ。だから、してあげているなんて気持ち、ひとつも湧いてこないもんな。
『ありか』より
つい忘れてしまいがちですが、「子どもは、どうなるかわからない未来そのもの」というのは、ひとつの真理だと思います。
親には、子どもにとってより良い環境を整え、愛情をもって育てる責任があります。
けれど、そうしていても、その子がどんな大人になるのかを、誰も言い切ることはできません。
こう育てたら、必ずこうなる。
そんな確かな方程式は、どこにもないのです。
子育てとは、答えの見えない未来を抱えながら進むこと。
その現実を、改めて突きつけられたような気がしました。
子育ての楽しさと難しさ
とはいえ、子どもの未来を悲観しながら子育てをしている親は、きっと少ないでしょう。
どちらかといえば、子どもの成長を見守りながら、節目ごとの出来事や日々の小さな変化を楽しみにしている親のほうが多いのではないでしょうか。
はじめて歩いた日。
はじめて入園した日。
できなかったことが、できるようになる瞬間。
その一つひとつが、かけがえのない喜びです。
けれど、たとえば、子どもが何か問題を起こしたとき。
あるいは、思いがけず問題に巻き込まれてしまったとき。
その瞬間、楽しさの裏側にあった「難しさ」が、急に現実味を帯びて迫ってきます。
子育ては、喜びだけでは語れません。
同時に、不安や迷いと隣り合わせの営みでもあるのです。
- 親の対応はこれでよかったのだろうか。
- あのとき、別の言葉をかけるべきだったのではないか。
迷いと後悔に苛まれるのは、決まってそんなときです。
この感覚を言い表した一文があります。
望もうが、望むまいが、親は自分以外の人間の未来を動かしてしまえる。そこには重いプレッシャーがある。
本書より
まさに、自分以外の人間の未来に影響を与えてしまう存在である。
その事実を、否応なく突きつけられる言葉だと思います。
まとめ|瀬尾まいこさんの『ありか』を読んで
この物語は、親子関係の厳しさを描きながらも、それだけで終わらない作品でした。
血のつながりは、ときに逃れようのない難しさをはらんでいる。
けれど同時に、人は血縁を越えた関係の中でも救われるのだと改めて気付かされました。
親であるということは、子どもの未来に影響を与えてしまう立場に立つということ。
それは誇らしくもあり、同時に恐ろしくもあります。
子育てに「絶対」はありません。
努力が必ず報われる保証もない。
それでも私たちは、わからない未来を抱えながら、今日も子どもと向き合っています。
この物語は、そんな親たちの迷いや弱さを否定せず、登場人物の言葉を通して肯定してくれるように感じました。
親子関係は、血がつながっているだけでは完成しない。
他人同士と同じように、歩み寄り、傷つき、時間をかけて育てていくものなのだと、改めて噛み締めています。
とても読後感の良い、親という立場にあるすべての人に、手渡したくなる一冊でした。

もりー
最後までお読みくださりありがとうございました。