表紙のイラストにとても惹かれ、私は迷わずAudibleで『トンネルの森 1945』を聴き始めた。
昭和15年、五歳の時、私を産んだおかあさんが死んだ。
という書き出しで始まる本は、
イコ、戦争は終わったよ。
と言う父、セイゾウさんの言葉で終わる。
角野栄子さんの自叙伝的物語には、現在、彩り豊かなイメージの角野栄子さんからはとても想像がつかないような、角野さんの過去が詰まっている。
子どもから子ども時代をあっけなく奪ってしまう戦争。
そんな過酷な時代に5歳でお母さんを亡くし、その後、父親と再婚した継母の光子さんと折り合いをつけながら暮らす繊細なイコを感じ、私はイコを抱きしめたくなった。
平和な時代に生きる私たちだからこそ、実体験として戦争を知っている人たちがとても少なくなってきてしまった今だからこそ、私はこの書籍に出会えて良かった、と心から思っている。
Audible版 『トンネルの森』 すずき紀子さんの朗読が心地よい
イコの疎開先である家のすぐ近くには“トンネルのような森”がある。
初めてここを通ったとき、イコは「いやだ、陰気な道!」と言う。
しかし、毎日ここを通り抜けて、イコはひとりで学校に行かなければならない。
父、セイゾウさんはイコにこのような言葉をかける。
仲良しになっちゃえば、この道も怖くない、平気になるよ。これからは、なんでもそれが一番だよ。仲良しになることだ
イコは父の言葉をお守りに、毎日ひとりで森を通る。
すると、いつのまにか
イコがとおりまーす、イコがとおりまーす、イコがとおりますよー
というおまじないを唱えるようになった。
同じ言葉の繰り返しのように見えるが、すすぎ紀子さんの朗読では、イコのそのときの心境が伝わってくるようだった。
子どもらしさが溢れていて、かと言って変に大人びているわけでもない、すすき紀子さんの声は幼かった頃の角野栄子さんにピッタリのような気がした。
書籍『トンネルの森 1945』は小学5年生の娘にピッタリだった
Audibleで聴きながら、“この本はきっと娘も読むに違いない”と思った私。
というのも、娘は角野栄子さんのファンだからである。
娘が角野栄子さんのファンになったキッカケは、角野栄子さんのご著書、魔女の宅急便がキッカケだった。
少し娘の話になるが、ASDで感覚過敏がひどい娘は、どちらかと言うと外出が苦手。
あらゆるノイズあふれる都会に出ることは、娘にとっては大きな挑戦となる。
そんな娘であるが、角野栄子魔法の文学館https://kikismuseum.jp/の存在を知ったときには、ものすごく行きたがったのだ。
それくらい、娘は角野栄子さんのファンなのである。
もちろん娘は『トンネルの森 1945』を読みたいと言った。
そして、届いた本を受け取った娘は2日もかからず、あっというまに読み切ってしまった。


私自身も実際に書籍を開いて読んでみたが、Audibleとはまた違った味わいを感じた。
たとえば、お父さんやおばあちゃん、弟の名前が『タカさん』『セイゾウさん』『ヒロシ』とカタカナであるのに対し、継母の名前は『光子さん』と漢字で表記されていたり。
イコが転校先で見つけた、あるクラスメイトの女の子を見たとき「ソカイっ子だ!」と思ったときの表記も、疎開ではなくソカイとなっていたりする。
このあたりの機微に触れられるのは、文字表現ではならではだと思う。
まとめ
角野栄子さんのご著書『トンネルの森 1945』は、おとなも子どもも楽しめる書籍だ。
裏表紙のカバーには、“10歳の少女の目で描かれた戦争がここにある!”と書かれているように、戦争の恐ろしさや酷さが伝わってくると同時に、子ども目線の逞しさや健気さも伝わってくるのである。
重たい書籍は苦手・・・というかたでも、もしかすると読めるかもしれない。
平和な時代が長く続いてきたからこそ、この国の歴史の光と影を感じてみるのも良いのではないでしょうか。

もりー
というわけで、最後までお読みくださりありがとうございました。