『ほどなくお別れです』は、正直に言えば、強い目的があって選んだ作品ではありませんでした。

Audibleの画面に表示されていて、なんとなく気になった・・・それがきっかけです。

けれど、聴きはじめてすぐに「これはハマる作品かもしれない」と感じました。

理由は、物語への没入感と、冨岡美沙子さんによるナレーションの素晴らしさでした。

登場人物それぞれの声がしっかりと立ち、違和感なく物語の世界に入り込むことができました。

気づけば私は、耳から流れてくる“別れ”の物語に、すっかり入り込んでいました。

※Audible版は現在、1〜3巻まで配信されています。(2026年2月時点)

耳から聴く“別れ”の物語。
その声は、想像以上に心の奥まで届きました。
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日常のすぐ隣にある“死”を静かに描く物語

常に隣り合わせにある「死」。

元気なときにはなかなか身近に感じられないものですが、この小説はそれが日常の延長線上にあることを教えてくれます。

主人公・清水美空は、「坂東会館」で働く若い女性です。

学生のアルバイトとして葬儀場で働きはじめ、葬祭ディレクター・漆原 (うるしばら)の仕事ぶりに心を打たれます。

そして、葬儀という仕事に魅せられ、就職を決意します。

プロの葬祭ディレクターを目指す美空の葛藤と成長も、本作の大きな見どころだと思います。

“孤独”ではなかった死

特に印象に残っているのは、「孤独死」を扱ったエピソードです。

ひとりで亡くなったおじいちゃん。

しかし、その“孤独死”は、私が想像していたものとはまったく違っていました。

娘さんは静岡で暮らしており、夫の両親の介護をしていました。

それは、亡くなった父が「夫の両親を大切にしなさい」と言い聞かせていたからです。

実父が倒れているとは知らず、義父の口に食事を運んでいた……。

その事実を知って泣き崩れる娘さんの姿は、私自身の経験とも重なり、胸が締めつけられました。

けれど、そのおじいちゃんは決して孤独ではありませんでした。

団地でご近所との関わりを大切にし、自立した暮らしをしていたからこそ、発見も早かったのです。

誰と暮らしているかよりも、
自分がどう在るか。

その大切さを、教えられた気がしました。

綺麗事では終わらない葬儀

人が亡くなるとき、親族間のしがらみによって疲弊する人も少なくないと思います。

私自身も、何度かそのような場面に向き合ってきました。

そんな私が強く共感した言葉があります。

心から故人を愛する家族や、ごく近しい人々で営む葬儀ならば、綺麗事として終えられると思っています。余計な人が加わるから、見栄や要らぬ気遣いでご遺族は疲弊する。

『ほどなくお別れです』 より

この言葉を語る小暮 (こぐれ) という人物。

なぜ彼がこんな発言をするのか・・・。

その理由は徐々に明らかになっていきます。

『ほどなくお別れです』 に触れて思うこと

物語に触れたあと、自分が経験してきた“別れ”について、静かに思い返したくなる物語でした。

  • 死について静かに考えてみたい方
  • 葬儀という仕事に関心がある方
  • 人の最期に関わる現場を知りたい方

このような方にはとても良い小説かもしれません。

現場の描写はリアルですが、坂東会館の人間模様があたたかく、重たい空気がやわらぎます。

私はこの作品を通して、父の死を改めて考えました。

そして、父の葬儀に関わってくださった方々の顔が浮かび、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

Audibleだからこそ味わえた、この物語の深み

先にも触れましたが、冨岡美沙子さんのナレーションは本当に素晴らしく、キャラクターと声が自然に重なります。

心の揺れや迷い、戸惑いが、声を通して繊細に伝わってきます。

涙のシーンも多い作品ですが、過剰にならず、とても自然でした。

感情がより立体的に感じられたのは、Audibleならではの体験だったからかもしれません。

重たいテーマですが、不思議とあたたかさが残る物語です。
気になった方は、ぜひAudibleで体験してみてください。
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「ほどなくお別れです」という言葉の意味

人が亡くなったとき。

お骨になった姿を見たとき、私はようやく気持ちに区切りがつく感覚になります。

「ああ、旅立ったのだ」「あの世へ向かったのだ」と。

出棺前、棺に釘を打つあの瞬間。

あれはきっと、身内だけでは決して区切りをつけられない時間なのだと思います。

その役割を、葬儀場のスタッフの方が代わりに担ってくださっている。

この作品を通して、私はその重みと優しさを知りました。

「ほどなくお別れです」という言葉は、冷たい宣告ではなく、悲しみに寄り添うための静かな覚悟の言葉なのかもしれません。

もりー

最後までお読みくださりありがとうございました☆